「東天の獅子 天の巻(第2巻〜第3巻)」

東天の獅子〈第3巻〉天の巻・嘉納流柔術
東天の獅子〈第2巻〉天の巻・嘉納流柔術

第2巻
名門として聞こえた、関東の揚心流戸塚派、さらに九州古流柔術界の猛者たちが続々と登場する、群狼邂逅の第二巻。講道館が創設された明治十五年、九州では久留米、熊本の二大勢力が激突した。運命の「警視庁武術試合」より前に、すでに各地で新時代への胎動が起こり始めていた。講道館は、まさに台風の目となりつつあった―。


第3巻
明治19年、「警視庁武術大会」において、ついに古流柔術諸流派と新興勢力・嘉納流が激突。古流勢は警視庁柔術世話係を務める達人など、剛の者ばかり。対する嘉納流も「講道館四天王」を中心に燦めく才能を揃えた。「時代は柔道へ――」。扉はここで開かれる!


相変わらず面白いなぁ。すぐにでも4巻読みたいなぁ。…というわけで、とりあえず既刊3巻を読了しました。まず、1巻の私の感想に思いっきり嘘が。てっきり、1巻で加納流柔術を中心に書いて、徐々にフェードアウトする形で2巻は別の人物が物語の中心になるのかと思っていました。本当は、4巻続けて加納流柔術が話の中心になるとのこと。…ってことは、書きあがっているという4巻までで完結するのは「加納流」編だけだったということか!…2巻にも1巻と同様に「天の巻」と書かれていて、おかしいなぁと思っていたのですが。。。結局、4巻以降(前田光世が中心になるはず)はまだまだ先になるということなんでしょうねぇ。ついに私も、完結するかも分からない夢枕獏の新刊を待たなければならなくなったわけです。あぁ、これが嫌だから獏を避けていたのにw 面白いから待たざるを得ないというのがまた辛いところ。


2巻では、警視庁主催で行われる武術大会に出場する九州・久留米の良移心頭流の中村半助や、千葉の揚心流戸塚派の面々(大竹森吉、照島太郎、好地円太郎ら)を紹介する形で話が進み、3巻ではこれら古流柔術と加納流柔術との戦いが描かれていきます。その中で、武田惣角西郷四郎という二人の謎めいた人物と、その二人に共通する「御式内」という謎の流派の存在が、物語をいっそう引き締める形に。また、1巻でのノンフィクション的な要素は徐々に薄らぎ、2巻以降はより「小説」になっています。


さて、2巻、3巻を読んでいて感じる楽しさはまさに「総合格闘技」のそれ。同じ柔術とはいえ様ざまな流派があり、それが一同に介する場所としての警視庁武術大会。これは今で言う総合格闘技のリングと捉えて問題ありますまい。そして、2巻で紹介された古流柔術の人々と加納流との対決が描かれた3巻がまぁ燃える!特に横山・照島戦、西郷・好地戦はよかった。好地円太郎なんて完全にかませ犬かと思っていたのに…。「神々の山嶺」でもそうでしたが、「限界」を書かせると獏は凄いですわ。


また、2巻の途中や3巻の中盤では琉球拳法が出てきており、打撃技も出てまいりました。当時の日本では打撃系の技を使う武術はあまり見られなかったようで、拳法使いの存在が柔術家達にカルチャーショックを与えることになります。私などは「K1→PRIDE」という流れで格闘技を見ているので、柔術技を始めて見たときにはひどく驚いたものでした。しかし、柔術が一般的である状況では、打撃の存在もなかなかショッキングだったんでしょうね。PRIDEを見ていても分かるとおり、キックボクシングや空手出身の人々の打撃と、レスリングや柔術出身の人々の打撃って質的に違いますから。いきなりあんなパンチ出されたらビックリしますわなぁ。


そんなわけで、より総合格闘技臭が強くなってきている中、4巻は武田惣角の沖縄でのお話からになりますね。4巻ももうすぐに発売。楽しみだぁ。



毎日新聞の書評。これはいいなぁ。
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20081207ddm015070026000c.html