半年振りに更新して2009年総括とか。。。

年始の挨拶もせずに更新滞ってしまい申し訳ありません...。もう、言い訳のしようもないくらいに放置してしまいました。本は読んでいるのですが、いまいち感想をアップできないうちに次の読書にいってしまう。。。


とりあえず、私の2009年の読書は冲方丁につきましたね。シュピーゲルシリーズの面白さが群を抜いていた。小説でも漫画でもアニメでも実写でも、あの勢いと迫力は今までにない体験でした。本屋大賞にノミネートされた「天地明察」とは大きく方向性が異なる作品ですが、やはりシュピーゲルシリーズのほうが冲方丁らしくて、今後もこっちの方向性で書き続けてほしいと思ってしまいます。
船戸与一蝦夷地別件」も素晴らしかった。まさに映像が思い浮かぶような文章。映画を観ているようなイメージで文章を読める作品でした。明るい物語でもなければ、読後感の爽やかな話でもありませんが、しっかりとエンターテイメントになっている不思議。ミステリ的に話を展開させる点も、読みやすさの点でポイントが高かったです。これだけ長い物語になると、どうやって「読ませるか」も作家さんの力量だと思うので。
とらドラ」の小説版は、10巻で号泣w 過去に物語でこんなに泣いたことはないよ!テレビ版は大河と竜児の恋愛についてはきちんと描かれていた反面、竜児の親子問題については展開が急すぎた印象でした。しかし、それはこの10巻を読んで補完できた!竜児とやっちゃんの再開シーンは、実家で読みながら涙が止まらなくて、親が部屋に入ってこないかヒヤヒヤしていましたよw
アニメでは「とらドラ!」が大傑作でした。上にも書いたように竜児の親子関係については、話数の問題もあってか急ぎすぎでした。しかし、アニメ版は一つ一つのシーンとても印象的。クリスマス「あの」シーンや雪山のシーンなど、小説版に比べてアニメ版のほうが圧倒的にインパクトが強かったです。
あとは「化物語」。映像がカッコイイ!映像にしづらいであろう「無駄話」の部分を、クールな映像で演出するという素晴らしいアニメ化でした。これは小説も読みたくなるなー。


…とまぁ、間に合わせ的に2009年の私の読書などを総括してみましたw 今後、こちらでどれだけ更新できるかはわかりませんが、とりあえず読了した本の一言コメントはこちらで書いていく予定です。


http://book.orfeon.jp/public/?user=m-16015792


また、twitterでもつぶやいていたりしますので、もしこんなサイトをみている方がいればフォローしていただけるとうれしいです。読了本についてもたまにつぶやいていますので。


http://twitter.com/yokohamalotte


…もしこれでフォローしてくれている方がいたら、素直にうれしいなぁw

「マルドゥック・ヴェロシティ」

マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・ヴェロシティ 2 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

崩壊の楽園、虚無の覚醒
廃棄処分を免れた男とネズミは悪徳の都市へ
戦地において友軍への誤爆という罪を犯した男--ディムズデイル=ボイルド。肉体改造のため軍研究所に収容された彼は、約束の地への墜落のビジョンに苛まれていた。そんなボイルドを救済したのは、知能を持つ万能兵器にして、無垢の良心たるネズミ・ウフコックだった。だが、やがて戦争は終結、彼らを“廃棄” するための部隊が研究所に迫っていた……生き残った者たちの再生の物語『マルドゥック・スクランブル』以前を描く、虚無と良心の訣別の物語。


マルドゥック・スクランブル」のラスボスであるディムズデイル=ボイルドが、暗黒面に堕ちるまでを描いた作品。同時に、「マルドゥック・スクランブル」という物語の前提となっている「スクランブル-09」という法律(事件における証人をマフィア等による危機から保護するために、緊急避難的に禁止された科学技術の使用が許可される)が成立、試行される段階が描かれた作品でもあります。つまり、「マルドゥック・スクランブル」の設定の裏側がいろいろと覗けるわけで、ファンにとってはたまらない1冊というわけです。実際、私はヴェロシティの読後、スクランブルを再読することになりましたw


戦争の道具として肉体改造されたボイルドらの面々が、戦争終了とともに危険物とみなされ、廃棄処分の危機に直面するところか物語が始まります。そこで、クリストファー博士とボイルドら「改造人間」達は証人保護プログラム「スクランブル-09」を立ち上げ、社会に自らの「有用性」を示すため奮闘します。この物語の行き着く先がボイルドのダークサイドへの失墜であることはわかっていても、「スクランブル-09」を根拠にして活躍する彼らの姿を見ていると、なにかワクワクするものがあるんですよね。そのくらい、09メンバーはみなが魅力的です。


また、09メンバーにはそれぞれ特殊能力があります。例えば、ボイルドは自分の周辺の重力を自由に操り、天井へ「落下」するなどのアクションが出来る、ボイルドの相棒であるウフコックは、自由に姿を変えてあらゆる武器や道具に変身できる、ジョーイは雷撃によるパンチ力を持つ(「オイレンシュピーゲル」の涼月と同じですね)、レイニーはどんな人物にもそっくりに変身できる…などです。これらの特殊能力を使って事件を解決していく様子は痛快です。


しかし、物語は裏世界(マフィアの「ネイルズ・ファミリー」)と表世界(大企業「オクトーバー社」とマルドゥック・シティーの市長)の世代交代を軸にして、徐々に複雑さ、陰惨さを増していきます。そんなサスペンスと同時に、09メンバーのライバルに当たる奇怪な改造人間「カトル・カール」の面々が登場すると、特殊能力者達による派手なアクションシーンが繰り広げられることになります。


サスペンス部分については、非常に多くの謎が現れ、それが未解決のまま物語が進んでいきます。そのため、興味を惹かれてぐいぐいと読み進められるのですが、一方で事件が複雑になりすぎて理解できなかったり忘れてしまったりということも…。また、最後の数ページで一気に謎が解決されてしまうという構成も、もうちょっと工夫がほしかったかなぁという感じがありました。…「シュピーゲル」シリーズもそうなのですが、最近の冲方作品はちと複雑になりすぎるところがあるような気がします。「マルドゥック」くらいの事件だと理解しやすいんだけれどなぁ…などと思うことも(ヘタレですいませんw)。ただ、複雑な中でも事件を要約するなどの配慮はありますし、十分に読ませます。また、これだけ複雑な物語を見事に収束させている、という点についても評価したいですね。


アクションシーンについては、「シュピーゲル」シリーズのようなミリタリーテイストのアクションというよりも、完全に妖怪大戦争(!?)ですw というのも、カトル・カールの面々がかなり奇怪な容姿をしており、ペニスが銃砲になっている奴やら、巨大な赤ちゃんやら、簡単に言えば妖怪のような奴らなのですよ。対する09のメンバーたちも特殊能力者であるため、よく言えばド派手、悪く言えばしっちゃかめっちゃ(笑)なアクションになっています。これ、ハマるところはスゴイ面白いんですよ!ただ、イメージできないシーンはひたすらイメージできないw まぁ、アクションシーンって多かれ少なかれ、イメージできるか否かで面白いかどうかが決まってくるところはありますよねぇ。個人的には「マルドゥック・スクランブル」や「シュピーゲル」シリーズのほうが楽しめましたが、ヴェロシティのほうもまた別な面白さがありました。


そして、ボイルドがダークサイドに堕ちていくシーンは…まぁとにかく読んでください、ということでw 一言だけ感想を書くと、「スクランブル」の主人公であるバロットは、ウフコックに「ルールを守ること」を教わったことに対して、ボイルドはルールを破ることでダークサイドへ堕ちていった、という点で対照的だなぁと思いました。もちろん、ルールを破ることになったのにも仕方がない点があったわけですが。。。そして、ラストシーンはグッときましたねぇ。


さて、この「マルドゥック」シリーズですが、いつか続編が出版されることになるのでしょう。というのも、「ヴェロシティ」では物語の終盤になって、シリーズにとって重要な設定が明かされることになります。この設定が結構びっくりするような内容で、「スクランブル」の主人公であるバロットたちがこの設定の中どのように動いていくのかとても気になりますね。…続編が出版された際にはもう一度「ヴェロシティ」を読み直そうかしらw

「オイレンシュピーゲル」「スプライトシュピーゲル」(1,2巻)

スプライトシュピーゲル II Seven Angels Coming (2) (富士見ファンタジア文庫 136-9)
スプライトシュピーゲル I Butterfly&Dragonfly&Honeybee (1) (富士見ファンタジア文庫 136-8)
オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2)
オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1)

「なんか世界とか救いてぇ―」。あらゆるテロや犯罪が多発し『ロケットの街』とまで渾名される国際都市ミリオポリスに、「黒犬」「紅犬」「白犬」と呼ばれる3人の少女がいた。彼女たちはこの街の治安を守るケルベルス遊撃小隊。飼い主たる警察組織MPBからの無線通信「全頭出撃!」を合図に、最強武器を呼び込み機械の手足を自由自在に操り、獲物たる凶悪犯罪者に襲いかかる!クールでキュートでグロテスクな“死に至る悪ふざけ”開幕。

あらゆるテロや犯罪が多発し、『ロケットの街』とまで渾名される国際都市ミリオポリス。「黒犬(シュヴァルツ)」「紅犬(ロッター)」「白犬(ヴァイス)」と呼ばれる警察組織MPBの“ケルベルス”が治安を守るこの都市に、ロシアの原子炉衛星“アンタレス”が墜落した。七つのテログループが暗躍する、この事件を収拾するため壊れかけの“ケルベルス”遊撃小隊が、超警戒態勢の街を駆け抜ける―!クールでキュートでグロテスクな“死に至る悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)”第2幕。

(あらすじは「オイレンシュピーゲル」の1,2巻)


今年度ナンバーワン候補の最右翼!私がどれだけはまったかと言うと、「オイレンシュピーゲル」と「スプライトシュピーゲル」を一気に8冊読んだあと、同じく冲方氏の作品である「マルドゥック・ヴェロシティ」3巻をまとめて読み、さらには過去に読んだはずの「マルドゥック・スクランブル」3巻をも読み返してしまったほどですw なにが面白いって、アクションシーンがとにかく格好いいんですよ!「マルドゥック」シリーズだけを読んでいる方も、表紙で引いてしまって手を出せずにいる方も、はたまた冲方氏をまったく知らない方も、是非一度は読んでいただきたい作品(特に「オイレン」の2巻までは是非)。感想なんて書くのも野暮なんですが、一応は感想を書くブログなんで何か書いておきますw


「オイレン」と「スプライト」はどちらも舞台は同じミリオポリス(現在のオーストリアのウィーン)。「オイレン」ではMPB、「スプライト」ではMSSという治安組織を舞台にして、3+3人の機械化された少女達を主役にして物語が進みます。2つの組織が別々の事件を追うこともあれば、同じ事件を追っている話もあります。いずれにしても、二つで一つのシリーズと考えて、片方に手を出したなら両方に手を出すつもりでいたほうがいいでしょう。というか、どっちも読まないと事件が複雑で分かりにくいところもあるので。。。


さて、私がこの作品で触れたいのは、最初に書いたとおりアクションシーンの格好よさなのです。ミリタリ的なロボットアニメとして「起動戦士ガンダム08MS小隊」や、最近何かと話題の京都アニメーションが制作した「フルメタルパニック TSR」を見たときに、映像のアクションシーンの格好よさに痺れた覚えがあります。一方で、どうしても活字のアクションは映像には勝てないのかもなぁ、とも思いました。…しかし、この作品を読んで、その考えが大きな間違いだと分かりましたよ!


特に「オイレン」の2巻の格好よさは半端じゃない。その格好よさは、主人公である涼月、陽炎、夕霧が持つそれぞれの武器(拳、ライフル、ワイヤー)の特性を見事に活かして描いているからこそ。特に陽炎の使うライフルは、絵にすればおそらく弾を撃つ一瞬だけの映像になるでしょう。しかし、この作品では、相手のスナイパーがいつ撃ってくるかわからない恐怖の中で、集中力を研ぎ澄ませ、一発の弾丸で仕留めるまでの過程が、息詰まるような迫力で描かれます。この静かな迫力は活字ならではと言えるのではないでしょうか。


また、体言止めや「+/-&」などの記号をぶち込んだ、冲方氏曰く「バラバラ(クランチ)文体」が文章に迫力を持たせており、映像としても頭に残りやすいんです。これは「マルドゥック・ヴェロシティ」の頃から使っている文体で、エルロイの「ホワイトジャズ」という作品に影響を受けているんだとか。正直最初は読みにくさを感じますが、読んでいると徐々に気にならなくなる、どころか、この文体じゃないと物足りなくなるくらいクセになりますw 「オイレン」の267ページから始まる、ロシア人部隊+涼月がある敵と戦うシーンは、とくにこの文体が生きていて、その迫力に圧倒されました。どんな文体かということで、この267ページからの戦闘の冒頭部分だけ少し抜粋しておきます。

世界中から音が消えたみたいだった。
自分の口から迸り続ける、火のような叫びが、あらゆる物音をかき消しているのだ。
叫びがとまらない―怒りが止まらない。
何もかもが止められない。
おかしくなりそうだ。
火。
銃撃。
血が舞った。
一斉射撃―一方的な虐殺を試みる者たち。
ヘリの機銃。
ジープの機銃。
大型装甲車の機銃。
兵士が発射したロケット弾―軍用機体=擬似吹雪のアームが二、三本まとめて宙を舞った。…


こんな調子の文体で、ものすげぇアクションシーンが描かれるんですわ。最初は読みにくさを感じるかもしれませんが、慣れてくると文章から何ともいえないパワーを感じるんですよ。1巻が比較的読みやすい内容になっているため、そこで文体に慣らしておいてから一気に2巻を読むといい感じになるんじゃないかと思います。


中身についても少し触れておくと、「オイレン」「スプライト」ともに1巻はキャラクターの紹介といった内容で、正直それほどのインパクトはありませんでした。が、2巻では核テロの脅威にさらされた街をMPB、MSSの両組織が守り抜くまでを描いており、話は一気に大きくなります。事件の背景は複雑ですし、場面がころころ変わるため、読んでいて状況を把握しにくいところもあります。が、両シリーズとも同じ事件を別の角度から追っているため、両方読めばまぁわかってくるようにはなっています。あと、シリーズ通してテロやら武器の密輸やら結構ハードなネタを散りばめているので、その辺に詳しい方はより楽しめるのではないかと思います。正直、あんまりライトノベル向きの内容ではないんだよなぁw


そして「オイレン」では3人の主人公の活躍を中心になっているのに対して、「スプライト」では3人の主人公を含めたMSSのメンバー達全員が捜査にあたる姿が描かれています。どちらが好きかは好みの問題になりますが、単純な私は「オイレン」のほうがシンプルかつ熱い!ってわけで、「オイレン」がメインというイメージですね。ついでに言えば、「オイレン」のほうが残酷なシーン(血が出たりグチャグチャになったり…)が多いような気もします。。。


以上、とりとめもなく書いていきましたが、とにかく面白い、ということだけがいいたいのです!シリーズはまだ続いて、今年の冬に新刊が出るのだそう。楽しみで仕方がないです!

「とらドラスピンオフ!」

とらドラ・スピンオフ2! 虎、肥ゆる秋 (電撃文庫)
とらドラ・スピンオフ!―幸福の桜色トルネード (電撃文庫)

高校一年、生徒会庶務にして不幸体質の富家幸太は、ある日みんなの兄貴な生徒会長すみれの妹、さくらと出会う。明るくてかわいい彼女に幸太は惹かれるが、さくらは自分の色香に無自覚で無防備な天然扇情娘だった!彼女の追試の勉強を手伝うことになった幸太は、いけない妄想と煩悩との戦いを強いられることになるが―。幸せに不慣れな幸太と天真爛漫なさくらの恋の行方ははたして!?「電撃hp」に連載された三編に大河と竜児が登場する書き下ろしを収録。超弩級ブコメ番外編、待望の文庫化。

食欲の秋。秋刀魚、栗、きのこ…おいしいもの、たくさん…かくして虎は、太った。実乃梨考案の不思議ダイエット法を早々に断念した大河は、不倶戴天の敵、亜美とジムに行くことにするが、そこで彼らを待っていたものとは!?春田浩次、十七歳。女子との理想の出会いは、川で溺れているところを助けて人工呼吸、そのまま彼女の部屋へ、その後は…フヒヒ!そんな妄想がなんと現実のものに。はたしてその顛末は?などなど「電撃文庫MAGAZINE」に掲載された短編を詰め合わせました。注目の書きおろしは独身話です!超弩級ブコメ、待望の番外編。


まずは「スピンオフ1」について。「わたしたちの田村くん」の感想で「今年で27の男が読むには少しむず痒い」などと書きました。それでも、「田村くん」は2巻が二股で泥沼〜だったこともあり、作品全体として「純粋なラブコメ」とはいえないかもしれません。それに対して「スピンオフ1」は男女が好き合うというだけの完全なラブコメなので、「田村くん」に増してむず痒さ倍増!しかし、全身をかきむしりながらも、楽しく読ませていただきましたw


話としては、何をしても不幸が訪れてしまう「不幸体質」の富家幸太と、明るく可愛く、そして何をやっても天然でエロいというさくらが、お互い好きあうまでを描いたラブコメ。不幸体質と天然エロ、という設定が主にコメディー部分で活かされていて、幸太がさくらに勉強を教えるシーンは爆笑ものw このシーンのためにさくらの設定を考えたんではないかと思えるくらいでしたよ。また、幸太が「自分が幸せになると周りが不幸になる」と考えてさくらとのデートをあきらめようと考えたときに、デートのときまでは幸太が不幸になるよう二人で努力する、といった無茶苦茶なシーンがあるんですが、その状況でとある人物に幸太が襲われたときにさくらが放った言葉がスゴイw


「2ミリ!3ミリ!離せ、私は3ミリにのされた富家幸太が見たいんだよぉ!」


もうね、腹抱えて笑いましたよw


もちろん、この設定を活かしているのはコメディー部分だけではありません。2話目の「幸福のトルネード 接近警報発令」のラストシーンは、富家の呼び寄せた不幸でも二人でいれば楽しくなってしまう、というもので、とても幸福なシーンでした。まぁ、ある種ドタバタラブコメのテンプレといえばそうなんですけれど、最初の設定をドラマでもコメディーでもしっかりと活かしている(そしてきちんと面白くなっている)ところに好感を持ちました。
しかし、実質ラストにあたる3話目の「幸福のトルネード F12」は、設定的な面白さではなく、ド直球のラブコメのみで攻めてきます。そして、2話まですっかり楽しんでしまっている私とすれば、もうド直球でもきちんと楽しめてしまうのですよ。いきなり3話目みたいなストレートな話だと拒否反応を起こしそうだけれども、1,2話でキャラクターへの思い入れやらもできてますんでねぇ。まぁ、どこかで冷静な自分が「はいはいよかったですね」などと突っ込みを入れていたりもするのですけどねw 


さて、この「スピンオフ1」は「とらドラ!」のシリーズではありますが、本編を読んでいなくても一つの作品として十分に楽しめる作品です。なので、竹宮ゆゆこ氏の作品を初めて読むという方にお薦めしたいですね。


その一方で「スピンオフ2」です。これはもう、本編読んでいる人が楽しむだけのものといっていいでしょう。具体的に言えば、竜児と大河の二人が日常をだらだらと過ごすのを見て、ニヤニヤできる人が読めばよいのかなと。そして私は、そういうことができる人だなとw まぁ、どうしてもシリーズを読んでいることが前提になるので、単品で楽しむものではないと思います(ただ、春田の話を読んで、短編のラブコメでも「田村くん」のときよりうまくなっているなぁ、という印象を持ちましたが)。
…ちなみに、表紙を含めて大河が何か食べているシーンの挿絵が多く、それがとても可愛いかったです。はい。


と、そんな感じで楽しめた「スピンオフ」2作でした。本編は終了しましたが、あと1作くらいスピンオフ出したりするのかしら?

「わたしたちの田村くん」

わたしたちの田村くん〈2〉 (電撃文庫)
わたしたちの田村くん (電撃文庫)

「中学生活最後の夏」という魅惑のフレーズに浮かれるクラスから取り残されていた田村くんの前に現れたのは、進路調査票に「故郷の星へ帰る」と書き続ける不思議少女系、松沢小巻だった。受験直前のバレンタインデー、田村くんの部屋に投石して窓を粉砕&チョコを誤爆したのは、学年随一の美少女にしてクールなツンドラ系、相馬広香だった。そんな変わり者の女の子二人と、空回りしながら奮闘する田村くんが贈る、おかしくてちょっと切ないラブコメディー。「電撃hp」で人気の『うさぎホームシック』『氷点下エクソダス』に、田村をそそのかす男・高浦とその奇妙な妹を描く番外編を加えて待望の文庫化。

松澤小巻。進路調査票の志望校欄に「故郷の星へ帰る」と書き続ける不思議少女。中学三年の夏、田村くんを魅了し翻弄し、その心をとらえたまま家庭の事情で遠方へ去る。相馬広香。孤高の美少女。でも少し寂しがりやの意地っ張り。高校一年の春、罵りあったり励まされたりした末、田村くんのファーストキスを奪う。そして奇しくもそのキスと同じ日、久しく音沙汰のなかった松澤から届いた一通のハガキが波乱を呼ぶ―。はたして三人の恋の行方は!?おかしくてちょっと切ない、あなたのツボにくるラブコメディー第2弾。


とらドラ!」を読み終えた勢いで、たけゆゆ先生の本を一気に読んでしまおうと思い読了。1巻で田村くんの中3時代の恋(松澤)と高1時代の恋(相馬)を描き、2巻では意図せぬままに二股の泥沼にはまって苦しむ田村…というお話です。


1巻は竹宮氏のデビュー作。どこか既視感漂う設定(特に1話の「うさぎホームシック」)ですが、まぁしっかりと楽しめました。「とらドラ!」のようにグッとくるような話ではなく、サラッと楽しめてちょっと切ないという、純粋な学園ラブコメ作品です。ただそれだけに、今年で27の男が読むには少しむず痒いというところもあり…。まぁ、「とらドラ!」の「重たい」部分が苦手で、純粋にラブコメを見ていたいという人にはお薦めです。


2巻は一転して、意図せず二股の泥沼にはまった田村の苦しみが延々と…。ただ、泥沼な展開の中にもしっかりとコメディーを入れてくるあたりはさすがですね。しかし(意図せずとは言え)二股をかけるようなモテる男の気持ちなんて私に分かるわけもないので、いまいちピンとこなかったw あと、設定として松澤と手紙以外でやりとりしていなかった、という点にどうしても無理があるような気がします。今のご時世、遠くに引っ越してもケータイでメールなり電話なりできるわけですから、どうしても不自然に感じてしまいます。こういう細かい違和感が作品のリアリティーを一気に奪ってしまう、ということもあるので、もう少し設定を練ってほしかったなぁと思います。


ちなみに、2巻の帯は「不思議少女系とクールなツンドラ系 あなたはどちら派?」。私は断然、松澤小巻(不思議少女系)派だと明言させていただきますw

「傭兵ピエール」

傭兵ピエール 下 (集英社文庫)
傭兵ピエール 上 (集英社文庫)

十五世紀、百年戦争下のフランス。王家の威信は失墜、世には混沌と暴力が充ち、人々は恐怖と絶望の淵に沈んでいた。そんな戦乱の時代の申し子、傭兵隊を率いる無頼漢ピエールは、略奪の途上で不思議な少女に出会い、心奪われる。その名は―ジャンヌ・ダルク。この聖女に導かれ、ピエールは天下分け目の戦場へと赴く。かくして1429年5月6日、オルレアン決戦の火蓋は切られた…。

オルレアンの戦いから二年、田舎町の守備隊長となったピエールのもとに、ある密命が届く。英軍の捕虜になり、魔女裁判にかけられたジャンヌ・ダルクを救出せよ―。愛する女のため、ピエールは独り敵地深く潜入する。ルーアンの牢獄で再会した二人。だが、ジャンヌの火刑執行まで残された時間はあと一日…。傭兵と聖女の運命的愛を描く歴史ロマン、堂々の大団円。


読後に池上永一テンペスト」を読んだときと似たような感想を持ちました。つまり「面白い!でも感想書きづらい!」w なぜ感想を書きづらいかというと、物語の展開自体は無茶苦茶なんですよ。登場人物が急に(私の感覚では)ありえない突飛な行動に出るんです。「テンペスト」で言えば、ある人物が急に主人公の寧温を裏切るとか(このパターン2回くらいあったな)、「傭兵ピエール」では主人公のピエールが「そこでかよ!」というタイミングで女を抱いたりとか…w 両作品とも、登場人物が(ほとんど)伏線もなく突然な行動に出たりして物語が展開していくので、読み始めは結構戸惑うこともありました。しかしそれでも面白いと思えるのは、描かれる場面が生き生きとしていて、展開はどうあれ「おいしい場面」が数多く描かれているからです。


テンペスト」の著者である池上氏は、首里城の正殿と後宮の両方を描くために、主人公の設定を「男として生きる女性」にしたというようなことを話していました。


http://www.kadokawa.co.jp/movie/tempest.html


つまるところ、「テンペスト」で池上氏が最も描きたかったのは、琉球の様ざまな伝統・文化・歴史だったのだと思います。一冊の作品に、琉球の多くの側面を出来るだけ多くぶち込みたのだと。それが一番の優先事項であり、読者に紹介したい琉球の側面が書けるのであれば、多少展開に無茶があろうともとにかく突っ込んでいく。そういう作品なんだと思います。


で、「傭兵ピエール」もまったく同じで、なによりも中世フランスの様ざまな側面を魅力的に描くことを優先しているのだと思うんです。だから、展開にはやはり無茶があります。強姦されそうになった男に惚れるとか、惚れた女を助ける過程で他の女を抱くとか、急に「人から声を奪う毒薬」が出てくるとかw でも、そうした納得できないような無茶な展開のおかげで、本当にさまざまな「おいしい」場面が描かれています。


・オルレアン解放までの一連の戦争
・守護者としての街の人々との交流
・囚われのお姫様の救出作戦
・悪魔城(?)での中世ホラー
・傭兵からの出世物語


もうね、これらの場面の一つ一つがしっかりと面白い!平たく言えば、ピエールを主人公にした冒険小説というか英雄譚というか、そんな感じで楽しめるんです。それもしっかり歴史的事実にそって描かれている、歴史の解釈をわざと変えることで印象的な場面を演出するなど、そういったところも面白い。この作品を読んだ後にウィキペディアで「ジャンヌダルク」の項目を見ると、登場した様ざまな場面を思い出しながら楽しく見られますね。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%AB%E3%82%AF


さて、ここまで書いて思ったのは、これら2作品と、最近どっぱまりしていた「とらドラ!」ってまったく逆の立場の作品だなということです。「とらドラ!」はそれほど大きな事件は起こりませんが、登場人物の行動一つ一つにすべて心理的な裏づけがある。だから読んでいて展開が「突飛だ」と思うようなことはほとんどありません。いや、突飛に見えてもそこにしっかりと心理的な裏づけがある、というべきでしょうか。で、個人的に言えば心理的な裏づけのある物語のほうがすんなり読めて好みではあるなと。


しかし、「テンペスト」や「傭兵ピエール」を読むと、小説ってそれだけでもないなとも思うわけです。歴史小説に顕著なのかもしれませんが、魅力的な場面をばんばんぶち込んでくるような作品も面白いなぁと思いました。「テンペスト」の帯に「ジェットコースター王朝絵巻」というコピーが使われていて、作品をうまくあらわしたいいコピーだなぁと思っていたんで、あえて「傭兵ピエール」は「ジェットコースター中世絵巻」とでも言っておきましょうかw とにかく、楽しい読書体験でありました。

「恋文の技術」

恋文の技術

京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。


今まで読んだ森見氏の作品が「太陽の塔」「四畳半神話体系」「夜は短し歩けよ乙女」の3冊だという友人の放った一言。「モリミーの話はどれも同じだよね、面白いけど」。同じものしか読んでいない私としても、まったく同感でございますw


で、今回の「恋文の技術」もやっぱり同じ話でございましたw 主人公が暮らしているのが京都大学ではなく石川県の七尾なのだけれども、京都の大学から実験所に飛ばされたから七尾に住んでいるというだけで、もともと暮らしていたのは京都。しかも、主人公の守田が七尾から京都の友人や先輩などに送りつけた手紙の文面という体で書かれているため、やっぱり京都の話が中心になるんですよ。主人公である守田の性格も、ひねくれもので、片思いをしていて…というところもいつもどおり。それでも面白く読めるのは、もはや芸の域に達しているユーモアにとんだ回りくどい表現の賜物でしょう。そして、毎回「見せ方」を変えていることも読者を飽きさせないポイントになっているのではないでしょうか。以下では、最初に挙げた3作品と今回の作品について「見せ方」に注目して書いてみます。


太陽の塔」は「京都、ヒネクレもの、片思い」の森見節がもっともストレートに書かれた作品で、主人公の一人称で話が淡々と進んでいきます。私はこの作品に一番初めに手を出したのですが、正直よみづらかった。おそらく、森見氏の独特の表現になれていなかったこともあるとは思いますが、見せ方がストレートな分、ちょっと引いてしまったのでしょう。なんというか、ストーカー的なところとか、ひねくれた表現とかを一人称で延々とやられるとちょっと辛いものがあったw


次に読んだのが「夜は短し歩けよ乙女」。「太陽の塔」と同じプロットですが、こちらは主人公の一人称ではなく、ヒロインである「黒髪の乙女」からの視点で描かれたパートが半分を占めています。この乙女の視点が入ることで、同じような物語でも、雰囲気が男臭いものが一気にかわいらしいものに変わるんですよ。で、実際に「黒髪の乙女」が可愛いw


次が「四畳半神話体系」。今度は同じプロットを「平行世界」を使って描いています。すなわち、大学1年時に違うサークルに入った場合、という設定で4つの物語を描きます。すべての平行世界で登場人物がほとんど同じ、展開は違えども結論はほとんど同じ、そして表現もわざとコピー&ペーストを多用するという、かなりトリッキーな見せ方をしています。しかし、1つ目の世界で登場した小道具が3つ目の世界にでてくるなど、遊び的な要素も満載で、読者が楽しめるよう様ざまな工夫がなされています。


そして「恋文の技術」。あらすじにあるように、主人公の守田が京都の友人へ書いた手紙、という形式で物語が進んでいきます。こういう設定の場合、普通は往復書簡の形式になりそうです。しかしこの作品は、守田が送った手紙へきちんと返事はきている(と言う設定)のですが、その内容を読者に見せないで延々と守田の手紙だけを見せる形で物語を進めていきます。なかなかトリッキーですね。この形式だと、こちらは文通相手のことを守田の主観(手紙)からしか想像できません。かなりキャラクターが濃いであろう文通相手たちの行動を直接見たいなー、とも思うのですが、これはこれで想像の余地があり面白いですね。
また、手紙形式であることをうまく利用しているのが9章の「伊吹夏子さんへ 失敗書簡集」。守田がヒロインある伊吹さん宛てに書こうとして失敗した恋文を集めたという章で、失敗作のラブレターが爆笑もの。失敗作には必ず「反省」がついていて、なぜこんな手紙を書いてしまったのか自己反省するのも面白い。そして、この成果を活かして書かれた最後の手紙を読むと、やれば出来るじゃないか守田!などと思ってしまうのです。


以上のように、森見氏の作品は「同じような」(失礼)物語を書いてるからこそ、見せ方に工夫/こだわりがあるのだと思います。だから、どの作品も面白く、読者を飽きさせないんですね。これからも「同じような」物語をいくつも書かれるのだろうなぁとは思いますが、それをどうやって見せてくれるのか、その「見せ方」にに期待したいと思います。
…なお、「きつねのはなし」や「有頂天家族」などはまだ読んでいないのですが、既読の作品とは違う雰囲気の作品なのかな?と思っています。時間があったらいつか読んでみたいと思います。


追記。

「見せ方」以外にこの作品で触れておかなければいけない重要な点が。それは「おっぱい」についてやたらと書かれているということw 一つの小説の中で、これだけ「おっぱい」という単語が連発されている作品はなかなかないのではなかろうか。おっぱいがいかに男の冷静な判断力を鈍らせるか、なぜおっぱいに魅了されるかなどについてとくとくと語られており、このパートは爆笑ものです。電車でこの作品を読んでいたときは、自意識過剰により回りも視線が気になるほどでしたよw まぁ、これだけおっぱいおっぱい言いながらも、うまい具合に表現を「いやらしく」しないのが森見氏のうまいところなんですよね。だから女性読者にも人気なんだろうなぁ。